現役MRが書く、現場の実務ノート

MSと連携できないMRへ|卸との関係を強化する具体策

・ 読了目安 14分

MSが動いてくれないのは、あなたのせいではない

結論から言うと、MSが期待通りに動いてくれないのは、あなたの頼み方が下手だからではありません。MRとMSはそもそも見ている景色が違い、同じ「協力してほしい」という言葉の重みがまったく異なるところから生まれるすれ違いです。

MRとMSでは評価される指標が違う

まず押さえておきたいのは、MRとMSでは会社から評価される物差しがまったく違うという事実です。ここを理解せずに協力を求めても、噛み合わないのは当然です。

項目MRMS
評価の中心自社製品の処方推進・情報提供活動卸全体の売上・取引先との関係維持
対象の広さ特定領域の製品知識全メーカー・全製品の物流と価格調整
時間軸中長期的な関係構築日々の受発注・配送・在庫の確実性
成果の見え方処方データという間接的な数字出荷実績という直接的な数字

この表からわかる通り、MSにとって「特定のメーカーの1製品を後押しする」ことは、日々の評価に直結しにくい行為です。MRからすれば重要な依頼でも、MSの評価軸では優先順位が上がりにくい構造があることを、まず理解しておく必要があります。

MSは1人で何十社分の製品を抱えている

MSが1人で担当する取引先は、規模の大きな医療機関を含めると膨大な数にのぼります。しかも扱う製品はメーカー1社分ではなく、担当エリア内のほぼすべてのメーカーの製品です。

  • 担当する医療機関・薬局の数が数十から百単位に及ぶことも珍しくない
  • 扱う製品はメーカー横断で数百から数千品目にわたる
  • 日々の業務の主軸は受発注処理と配送調整であり、個別製品の説明はその合間に行う

こうした状況を踏まえると、MSが自社製品だけに時間を割けないのは能力や熱意の問題ではなく、物理的な時間配分の問題だとわかります。

同じ「お願い」が他社MRからも来ている

さらに厄介なのは、あなたが頼んでいることと同じような依頼が、他社のMRからも同時多発的に届いているという事実です。

MSの1日のうち、あなたの会社のために使える時間はごくわずかだと考えてください。「なぜ動いてくれないのか」ではなく「限られた時間の中でどう優先してもらうか」という発想に切り替えるだけで、頼み方は自然と変わります。

たとえばMSの視点に立つと、こんな一日になっています。

「A社のMRさんから新製品の説明資料を渡された。B社のMRさんからは在庫確認の依頼。C社のMRさんからは同行のお願い。合間に配送トラブルの電話対応もある」

このように、あなたの依頼は数ある依頼の1つに過ぎません。だからこそ次の章で説明する「MSに渡すべきもの」を工夫し、数ある依頼の中で選ばれる存在になる必要があります。

選ばれる存在になるというのは、特別なテクニックを使うということではありません。数ある依頼の中で「これは対応しやすい」「この人の依頼はいつも助かる」と感じてもらえるかどうかの積み重ねです。次章以降で、その具体的な方法を見ていきます。

MSに渡すべき3つのもの

結論として、MSに動いてもらうために必要なのは「気合の入ったお願い」ではなく、MSの負担を減らしながら成果につながる3つの材料を渡すことです。

情報:面会で得た医師の反応を返す

MSが医師や薬剤師と会話する際、手ぶらで製品名だけを伝えるのと、具体的な反応や背景を知った上で話すのとでは、説明の説得力がまったく違います。

面会で得た反応は、MRだけが持っている情報です。それをMSに渡さずに抱え込んでしまうと、MSは的外れな説明をしてしまい、結果として信頼を落とすことにもなりかねません。

  • 医師から出た具体的な質問や懸念点
  • 処方を検討する上でのハードルになっている点
  • 逆に好意的な反応があった点

情報を渡す際は、次のような観点を意識すると整理しやすくなります。

  • 医師の反応をそのまま伝えるのか、要約して伝えるのか
  • MSが説明の際にそのまま使える言い回しになっているか
  • 次回の面会までに確認しておいてほしいことは何か

こうした情報を渡す際は、たとえばこんな伝え方が実践的です。

「先生は効果より安全性のデータを気にされていました。もし聞かれたら、まずそちらから説明していただけると話が早いと思います」

このひと言があるだけで、MSは自信を持って会話に臨めるようになります。逆に何も情報を渡さなければ、MSは製品名と簡単な特徴だけを頼りに会話するしかなく、踏み込んだ質問をされた瞬間に答えられなくなってしまいます。

情報を渡すタイミングも重要です。訪問の直前にまとめて伝えるのではなく、面会のたびに小さく共有しておくと、MS側も記憶に残りやすくなります。「先週の件、追加でこんな反応もありました」と一言添えるだけで十分です。

手間の削減:伝えることを1枚にまとめる

MSは製品説明の専門家ではありません。長い資料を読み込んで要点を抽出する時間はないと考えたほうが現実的です。

伝えたいことがどれだけ多くても、MSに渡す資料は最終的にA4一枚に収まる分量まで削ぎ落としましょう。情報量よりも「読めば話せる」状態になっているかどうかが重要です。

製品の特徴を羅列した資料をそのまま渡すのではなく、「今回はこの1点だけ伝えてほしい」という形に絞り込むことが、結果的にMSの行動を引き出します。

資料を作る際は、MSが読んですぐに声に出せる文章になっているかを基準にしてください。専門的な言い回しをそのまま書き写すのではなく、日常会話の語彙に置き換えるひと手間が、資料の実用性を大きく左右します。

実績の共有:動いた結果を必ずフィードバックする

MSに動いてもらった後、その結果を報告しているでしょうか。ここを怠るMRは非常に多く、実はMSの協力が続かなくなる最大の原因になっています。

「頼みっぱなし」は信頼を失う一番の近道です。動いてもらった結果がどうだったかを伝えないと、MSからすると「協力しても意味があったのかわからない」という状態になり、次第に優先順位を下げられてしまいます。

「先日ご協力いただいた件、先生から前向きな反応をいただけました。ありがとうございます」という一言を伝えるだけで、MSは自分の行動が成果につながったことを実感できます。この積み重ねが、次の協力を引き出す土台になります。

卸訪問で失敗しない立ち回り

結論を先に言うと、卸訪問は「訪問すること」自体が目的化しやすく、話す内容と相手を見極めないと、時間を使った割に何も残らない訪問になりがちです。

朝の営業所で何を話すか

朝の営業所は出荷準備で最も慌ただしい時間帯です。この時間に長い製品説明を始めるのは避けたほうが賢明で、手短な要件だけに絞るべきです。

  • 当日中に対応してほしい依頼があれば簡潔に伝える
  • 前回渡した情報への反応があれば一言添える
  • 長い説明が必要な内容は後日の時間を改めて依頼する

要件を先に伝え、詳しい話は別の機会に、という順番を徹底するだけで、忙しい時間帯でも印象を悪くせずに用件を済ませられます。

支店長・営業所長への挨拶が効く理由

現場のMSだけでなく、支店長や営業所長への挨拶を欠かさないMRは、結果的にMSからの協力も得やすくなります。これは単なる礼儀の話ではありません。

管理職が「このメーカーは大事にしたい」という空気を作ることで、現場のMSも優先順位を上げやすくなるという、組織的な力学が働くためです。挨拶自体に特別な内容は要りません。顔を覚えてもらい、日頃の協力への感謝を一言添えるだけで十分です。

話す時間が取れない時の代替手段

忙しくて立ち話すらできない日も当然あります。そんな時は無理に時間を作ってもらおうとせず、後で読める形で要点を残す方法に切り替えましょう。

忙しい相手を捕まえて長々と話すのは避けてください。「今は無理そうだ」と感じたら潔く引き、メモや資料を託して次の機会につなげるほうが、結果的に関係が長続きします。

MSを「自分の製品を説明できる状態」まで引き上げる

結論として、MSに協力してもらう前提には「そもそも製品のことを理解しているか」という土台があります。ここが抜けていると、どんなに丁寧にお願いしても空回りします。

MSは医療の専門教育を受けているわけではないため、専門用語だけを並べた説明では記憶に残りません。日常の会話で使えるレベルまで噛み砕いた説明を用意する必要があります。

これは資料の分かりやすさだけの問題ではありません。MS自身が「説明できる」と思えるかどうかが、実際に動いてもらえるかどうかを大きく左右します。理解が曖昧なまま頼まれた依頼は、後回しにされやすいのが現実です。

  • 製品の特徴を一言で言うとどう説明できるか
  • 他社製品と何が違うのか、比較の軸を示す
  • 医師から聞かれやすい質問とその回答例

これらを口頭で伝えるだけでなく、短いメモとして渡しておくと、MSが自分のタイミングで見返せるようになり、定着が早まります。

「この製品を一言で説明すると?」とMSに逆質問してみてください。答えに詰まるようであれば、まだ説明が伝わりきっていないサインです。

こうして説明できる状態まで引き上げておくことが、結局は最も効率のよい協力依頼の下準備になります。一度理解してもらえれば、その後は同じ説明を繰り返す必要がなくなり、依頼のたびにゼロから教える手間もなくなっていきます。

同行を依頼するときの組み立て方

結論から言うと、同行依頼が失敗する最大の原因は「とりあえず一緒に来てほしい」という曖昧な頼み方にあります。目的とゴールが共有されていない同行は、MSにとってもただの時間拘束でしかありません。

同行を依頼する際は、次の3点を事前に伝えるようにしましょう。

  • 誰に、何を目的に会いに行くのか
  • 同行してもらう理由(MSの立場だからこそ話せることは何か)
  • 当日の役割分担(どこまでMSに話してもらうか)

この3点を事前に共有しておくだけで、当日の同行は驚くほどスムーズに進みます。逆にこれらを曖昧にしたまま当日を迎えると、現場で即興の対応を強いることになり、MSに余計な負担をかけてしまいます。

たとえば依頼する際は、こんな伝え方が具体的です。

「今回は在庫や納期の話が中心になりそうなので、その部分は〇〇さんから直接お伝えいただけますか。製品の話は私からします」

目的を伝えないまま同行を依頼すると、当日MSが何を話せばいいかわからず、ただ横に立っているだけの同行になってしまいます。これが続くと、次回以降の依頼を断られやすくなります。

役割が明確な同行は、MSにとっても「自分が呼ばれた意味」を実感できる機会になり、次の依頼にも前向きになってもらいやすくなります。

同行後のフォローも忘れてはいけません。訪問直後に「今日はありがとうございました、〇〇の話が特に効いていたと思います」と一言伝えるだけで、同行の意味を相手と共有できます。この振り返りがないと、同行はただの一度きりの付き添いで終わってしまいます。

スペシャリティ領域でMSとどう組むか

結論として、スペシャリティ領域におけるMSとの連携は、プライマリ領域とは前提から組み立て直す必要があります。対象となる医療機関の数が少ない分、1件あたりの関係の深さが結果を左右するからです。

プライマリ領域であれば、担当医師の数が多いため、MSの協力が1件抜けても全体への影響は限定的です。しかしスペシャリティ領域では、対象となる医療機関自体が限られており、その中の主要な数施設への納入体制や情報伝達が滞ると、事業全体に響きかねません。

プライマリ領域の感覚のまま「担当が広いので手広く声をかけておこう」という動き方をしてしまうと、スペシャリティ領域ではかえって関係が薄くなり、肝心なときに動いてもらえないという事態を招きます。

だからこそ、スペシャリティ領域を担当するMRは、限られた対象施設を担当するMSとは特に密な関係を築く必要があります。

  • 対象施設を担当するMSが誰かを正確に把握しておく
  • 疾患や治療の背景など、専門的な情報を継続的に共有する
  • 他社の希少疾患領域担当MRも同じMSに接触している前提で動く

担当が変わるたびにこの3点を確認し直す習慣をつけておくと、急な人事異動があった際にも関係構築をゼロからやり直さずに済みます。

スペシャリティ領域では、MSに「この施設のこの製品については、あなたが窓口」という認識を持ってもらうことが重要です。担当施設が少ない分、1人のMSとの信頼関係がそのまま事業の安定につながります。

専門性の高い領域ほど、MS自身も理解に時間がかかることを前提に、継続的な勉強会や情報提供の機会を作る姿勢が求められます。単発の依頼ではなく、時間をかけて育てる関係だと捉えたほうが現実に即しています。

対象施設が少ないということは、裏を返せば1人ひとりのMSと深く向き合う時間を確保しやすいということでもあります。プライマリ領域では難しい「顔と名前を一致させ、担当者個人の状況まで把握する」関係づくりが、スペシャリティ領域では現実的な選択肢になります。

こうした深い関係は一朝一夕には築けませんが、対象が絞られているからこそ着実に積み上げられます。焦って多くの接点を持とうとするより、少数の相手と丁寧に向き合う姿勢のほうが、結果的に早く信頼を得られることも少なくありません。

対象施設が少ないからといって、特定のMS1人に依存しすぎるのも危険です。異動や担当変更が起きた際に、情報が引き継がれずゼロからの関係構築になってしまうことがあります。窓口は複数確保しておくことをおすすめします。

なお、卸との関係において、価格や取引条件に関する交渉はMRが関与すべき領域ではありません。MRの役割はあくまで製品情報の提供と関係構築であり、価格交渉は別の担当部門が担う原則を守ることが、結果的にMS・卸との健全な信頼関係を保つことにもつながります。

やってはいけない5つのこと

ここまで紹介してきた考え方を踏まえ、MSとの関係で避けるべき行動を5つにまとめます。

  • 頼みっぱなしで結果を報告しない
  • 忙しい時間帯に長時間の説明を始める
  • 専門用語だけで説明し、MS自身が理解できていない状態を放置する
  • 同行の目的やゴールを共有しないまま当日を迎える
  • 特定のMS1人だけに依存し、他の窓口を作らない

どれもここまでの章で触れてきた内容ですが、あらためて並べてみると、すべて「相手の時間や状況への配慮を欠いた行動」という共通点があることに気づきます。

これらはどれも、単体では小さなミスに見えるかもしれません。しかし積み重なると「このメーカーのMRは頼みにくい」という印象を形成し、一度定着すると挽回に長い時間がかかります。

日々の小さな振る舞いの積み重ねが、MSからの協力度合いを大きく左右することを忘れないようにしましょう。

この5つに共通しているのは、いずれも「相手の立場を想像すれば避けられるはずのこと」だという点です。特別なテクニックや話術がなくても、相手が今どんな状況にあるかを一呼吸おいて考えるだけで、多くは防げます。

逆に言えば、これらを避けるだけでも他社のMRとの差別化になります。丁寧な対応を続けているMRは、MSの記憶に残りやすく、いざというときに優先的に動いてもらえる存在になっていきます。

まとめ

MSが動いてくれないと感じたとき、多くのMRは自分の頼み方や熱意を反省しがちです。しかし本当に必要なのは、MRとMSの評価軸の違いを理解し、相手の負担を減らす形で情報と実績を渡すことです。

今日から意識してほしいことを、あらためて整理します。

  • MSは自社のためだけに動いているわけではないと理解する
  • 情報・手間の削減・実績のフィードバックの3つを渡す
  • 訪問のタイミングと相手の立場を見極めて話す
  • 同行やスペシャリティ領域では、目的と役割を事前に共有する

卸訪問での立ち回り、同行の組み立て方、スペシャリティ領域での深い関係構築まで、共通しているのは「MSの立場から見て協力する理由があるかどうか」という視点です。マナーや気合ではなく、構造を理解した上での行動が、結果として長く続く協力関係を作ります。

今日からできることは、決して大掛かりではありません。次にMSに会うときに、直近で協力してもらった件の結果を一言伝える。それだけでも、関係は少しずつ変わり始めます。

MSとの関係は、一度の依頼で完成するものではなく、日々の小さなやり取りの積み重ねで育っていくものです。焦らず、目の前の一つひとつの接点を大事にしながら、長く続く協力関係を築いていってください。