
現役MRのAI活用|明日から一人で始める使い方
MRのAI活用の話が「導入事例」ばかりな理由
結論から言うと、世の中に出回っているMRのAI活用情報の多くは、会社が契約したツールを前提にした「導入事例」であり、個人が明日から真似できる話になっていません。
検索して出てくる記事の大半は、AIベンダーやDX支援企業が自社サービスを売るために書いたものです。企業の意思決定者に向けて書かれているため、個人のMRが読んでも「うちの会社は導入していないから関係ない」で終わってしまいます。
会社の導入判断を待たなくても、個人で契約できる生成AIサービスだけで始められることは意外と多くあります。この記事では、私が実際に個人の範囲で使っている使い方だけを紹介します。
この記事では、特定の企業の導入事例やツールの比較はしません。私自身が日々の業務でどう使い、何が変わったかを、一人称でそのまま書きます。
会社がどんなツールを契約しているかに関わらず、個人のスマートフォンやパソコンから使える生成AIサービスは既に数多く存在します。無料の範囲で試せるものも多く、始めるためのハードルは想像より低いというのが実感です。
大事なのは、どのツールを使うかではなく、どこまでの情報を入れてよいかという線引きと、どんな場面で使うと効果があるかという実感です。この2点を中心に、以降の章で具体的に書いていきます。
導入事例の記事を否定したいわけではありません。ただ、そうした記事だけを読んで「自分には関係ない話」と結論づけてしまうのは、もったいないと感じています。個人で試せる範囲だけでも、日々の負担は十分に軽くなります。
私自身、最初にAIを触ったときは半信半疑でした。それでも小さな用途から試し続けた結果、今では準備にかかる時間の感覚が明らかに変わったと実感しています。
同じように感じているMRは、周囲を見渡してもそれなりにいるはずです。ただ、それを言語化して共有する機会が少ないだけだと思っています。この記事もその共有の一つとして書きました。
現役MRが実際にAIを使っている場面
結論として、私がAIを使っているのは「情報収集」「準備」「記録」「資料作成」の4つの場面です。特別なことをしているわけではなく、どれも地味な下準備の効率化です。
情報収集と文献の下読み
論文や資料に目を通す時間は、MRの仕事の中でも後回しにされがちです。私は文献のPDFや公開情報のテキストをAIに読ませて、まず要点をつかむ用途に使っています。
読み込む前に自分でざっと目次を確認し、AIの要約はあくまで「どこを重点的に読むか」を決めるための下読みとして使います。全文をAIの要約だけで済ませることはしません。
以下の文章を、専門知識のない人にもわかる言葉で
300字以内に要約してください。
数値や比較の記載があれば、それも残してください。
[ここに要約したい文章を貼り付け]
このプロンプトの良いところは、「専門知識のない人にもわかる言葉で」と指定することです。自分がすでに知っている前提を外して説明させることで、説明が本当にわかりやすいかどうかを確認できます。
以前は文献を1本読み切るのに30分近くかかっていた日もありましたが、先に要点を把握してから本文を読むようになってから、同じ時間で2〜3本に目を通せるようになりました。
面談前の想定問答づくり
面談前に「この医師なら何を聞いてくるか」を想像する作業を、AIとの壁打ちに使っています。
あなたは循環器内科の医師です。
以下の製品説明を読んで、疑問に思う点を
5つ質問してください。専門的な視点で構いません。
[ここに製品の一般的な特徴を貼り付け]
「あなたは〇〇科の医師です」と役割を与えると、想定質問の質が上がります。自分では気づかない角度からの質問が返ってくることが多く、面談前の準備の抜け漏れに気づけます。
ここで貼り付けるのはあくまで一般に公開されている製品情報の範囲です。個別の医師とのやり取りの内容は入れません。
日報・面談記録の作成
面談直後にメモした箇条書きを、報告用の文章に整えるのにAIを使っています。
以下の箇条書きのメモを、社内報告用の文章に
整えてください。事実と所感を分けて、
簡潔な文体でお願いします。
[ここに面談メモの箇条書きを貼り付け]
- 箇条書きのメモをそのまま貼り付け、文章化を依頼する
- 事実と所感を分けてもらうことで、後から読み返しやすくなる
- 出てきた文章は必ず自分で読み直し、事実と違う部分がないか確認する
この用途で一番助かっているのは、面談直後の記憶が新しいうちに箇条書きだけ残しておけば、あとの整形をAIに任せられる点です。文章を一から書く時間が大きく減りました。
説明資料と図解の作成
社内向けの簡単な資料や、自分用の理解を整理する図解を作る際にもAIを使います。
以下の情報を、比較表の形式に整理してください。
項目は横軸、比較対象は縦軸にしてください。
[比較したい情報を箇条書きで貼り付け]
AIが作った表や文章をそのまま社外に出すのは避けてください。あくまで自分の理解を整理するための下書きであり、正式な資料として配布する前には、必ず社内のルールに沿った確認を経る必要があります。
自分の頭の中を整理する目的で使う分には、AIの図解化は非常に助かります。ただし、それを最終成果物として扱わないという線引きは常に意識しています。
こうして4つの場面を振り返ると、共通しているのは「ゼロから作る」作業をAIに任せ、「最終的に正しいかを見極める」作業を自分に残しているという点です。この役割分担が崩れると、効率化のつもりが事故につながりかねません。
どの場面も、AIを使う前は当たり前のようにこなしていた地味な作業です。派手な変化ではありませんが、こうした小さな積み重ねが1日の中で何度も発生するからこそ、まとめて見ると大きな時間の差になっています。
AIに入れてはいけない情報の線引き
結論として、AIに情報を入力する際の判断基準は「それが誰か個人を特定できる情報かどうか」です。ここを誤ると、業務効率化のつもりが重大な情報漏洩になります。
| 分類 | 入れてよい情報の例 | 入れてはいけない情報の例 |
|---|---|---|
| 患者情報 | 一般的な疾患名・症状の傾向 | 個人が特定されうる年齢・症状の組み合わせ |
| 医師情報 | 一般的な診療科・関心テーマ | 医師名、所属施設名、個人が特定できる発言 |
| 社内情報 | 公開されている製品情報 | 未公表の情報、社内限りの戦略資料 |
| その他 | 自分の言葉でまとめた学習メモ | 契約書や監査資料など機密文書の原文 |
患者に関する情報
患者に関する情報は、どれだけ断片的であっても入力しないというのが私の原則です。
- 年齢・性別・症状・地域などの組み合わせは、それだけで個人が推測できる場合がある
- 「先日の患者さん」のような曖昧な表現でも、文脈から特定につながる可能性がある
- 学習用の仮想事例を作りたい場合は、実在のケースを一切参照せず、AIにゼロから作らせる
「匿名化したつもり」でも、複数の情報を組み合わせると個人が特定できてしまうケースがあります。少しでも迷ったら入力しない、が唯一安全な判断です。
未公開・社内限りの情報
未承認の情報や、社内限りとされている資料の内容も対象外です。
開発中の情報や、公開前の販売戦略などは、たとえ要約や言い換えの目的であっても外部のAIサービスに入力すべきではありません。多くの生成AIサービスは、入力内容を学習データとして扱う可能性がある設定になっていることがあるため、公開前提でない情報は原則として持ち込まないという判断が安全です。
サービスによっては入力内容を学習に使わない設定を選べる場合もありますが、設定の有無や範囲を個人の判断だけで正確に把握しきれるとは限りません。設定を過信せず、そもそも入力しないという判断を基本にしたほうが安全です。
社内向けの資料であっても、公開が前提となっていない時点で「未公開情報」として扱うのが基本です。公開済みかどうか迷ったら、上長や広報担当に確認してから使うくらいの慎重さがちょうどよいと感じています。
医師個人が特定される情報
医師の氏名はもちろん、所属施設名や役職、発言内容の詳細な組み合わせも避けるべき情報です。
(避けるべき入力例)
〇〇病院の循環器内科部長の先生に、
先週こう言われたのですが、どう対応すべきですか。
このような入力は、施設名と役職の組み合わせだけで個人が特定される可能性があります。相談したい内容がある場合は、固有名詞をすべて外し、一般化した状況として質問することが必要です。
(言い換えた入力例)
専門性の高い診療科の医師から、
説明の根拠についてかなり踏み込んだ質問を
受けた場合、どう準備しておくとよいですか。
固有名詞を削り、状況だけを一般化して尋ねれば、相談したい本質は十分に伝わります。この言い換えを習慣にするだけで、多くのリスクは回避できます。
判断に迷ったときの原則
判断に迷ったときの私なりの基準は、「その内容を社外の人がいる場で声に出して言えるか」です。
入力前に一度、その文章を音読してみてください。誰かに聞かれて困る内容であれば、AIにも入れるべきではありません。この基準はどんな状況でも応用が利きます。
迷ったときは入力しない。この一択で十分で、効率化のために線引きを緩める価値はありません。
プライマリとスペシャリティで使いどころが変わる
結論として、AIの使いどころはプライマリ領域とスペシャリティ領域で少し変わります。対象の広さと専門性の深さが違うためです。
プライマリ領域では、担当する医師の数が多く、扱う情報も幅広いため、AIは情報収集と資料整理のスピードを上げる用途で特に効果を感じます。多くの製品・疾患領域を横断的に押さえる必要がある分、要点を素早くつかむ壁打ち相手として重宝します。
- プライマリ:幅広い情報を素早く整理する用途で使う頻度が高い
- スペシャリティ:少数の専門的なテーマを深く掘り下げる壁打ち相手として使う
一方でスペシャリティ領域では、対象施設が少ない分、1件ごとの準備を深く作り込む時間があります。AIには疾患の背景知識を多角的に質問し、自分の理解を深める「壁打ち相手」としての役割を期待しています。
領域によってAIに求める役割を変えると考えると、使い方が整理しやすくなります。プライマリは「速さ」、スペシャリティは「深さ」を助けてもらう道具、というイメージです。
異動でどちらも経験してみると、この違いがより実感できます。プライマリで身につけた「素早く要点をつかむ使い方」は、スペシャリティに移ってからも土台として役立ちますし、逆にスペシャリティで培った「深く掘り下げる使い方」は、プライマリでの限られた面会時間の中でも生きてきます。
領域が変わってもAIとの付き合い方をゼロから作り直す必要はなく、これまでの使い方に少し重心を移すだけで十分だというのが実感です。
どちらの領域であっても、AIに任せているのはあくまで準備の部分であり、実際に医師と向き合う場面での判断は自分自身の役割です。この軸さえぶれなければ、領域が変わることへの不安も小さくなります。
明日から一人で始める3ステップ
結論として、会社の導入を待たずに始めるなら、次の3ステップで十分です。特別な準備は必要ありません。
- 個人で使える生成AIサービスのアカウントを作る
- 公開情報の要約や、想定問答づくりなど、リスクの低い用途から試す
- 使ってみた結果を自分なりに記録し、続ける価値があるかを判断する
生成AIを業務の下準備に使い始めたいMRです。
まずは何から試すのがよいか、
低リスクな使い方を3つ提案してください。
いきなり複雑な使い方を目指す必要はありません。まずは前章で紹介したような、情報収集や記録整理といった低リスクな用途から試してみることをおすすめします。
ステップ1のアカウント作成は、多くのサービスで数分もあれば終わります。難しいのはそこから先で、「何に使えばいいかわからない」という段階でつまずく人が多い印象です。だからこそステップ2では、自分の業務を思い浮かべながら、リスクの低いところから小さく試すことを優先してください。
ステップ3の記録は、日記のように大げさなものでなくて構いません。「今日はこの用途で使ってみた、こう感じた」程度のメモで十分です。数週間続けてみると、自分にとって本当に効果があった使い方が自然と見えてきます。
最初から業務全体を効率化しようと意気込むと、かえって続きません。1つの用途に絞って試し、慣れてから次の用途に広げるくらいのペースがちょうどよいと感じています。
私自身も、最初に試したのは日報の文章整形だけでした。それに慣れてから想定問答づくりに広げ、さらに文献の下読みへと少しずつ用途を増やしていきました。最初から全部を変えようとしなかったことが、結果的に続けられた理由だと思います。
「AIに仕事を奪われる」のか
結論として、AIに奪われるのは「仕事」そのものではなく、仕事の中の「準備」や「整理」といった作業の部分だと感じています。
現場で医師と向き合い、信頼関係を築くという部分は、今のところAIに代替される気配はありません。むしろ、下準備にかかっていた時間が減った分、対話そのものに使える時間が増えたという実感があります。
AIに任せられるのはあくまで準備や整理の部分であり、医師への説明内容の正確性や適切さの最終判断は、常に自分自身の責任です。AIの回答をそのまま信じて話すことは避けてください。
不安を感じる気持ちは理解できますが、まずは自分の作業のどこにAIを取り入れられるかを、小さく試してみることから始めてみてください。
準備や整理にかけていた時間が減った分をどう使うかは、人によって差が出るところだと思います。私の場合は、その時間を面談前の想定問答づくりや、担当エリアの情報収集に回すようにしています。
浮いた時間をただの余白にせず、対話の質を上げるための準備に再投資できるかどうかが、AIをうまく使えているかどうかの分かれ目になると感じています。
長期的に見ても、AIが代替できるのは定型的な準備作業までで、目の前の相手に合わせて言葉を選び、信頼を積み重ねていく部分は、これからも人にしかできない仕事として残り続けると考えています。
だからこそ、AIを恐れて距離を置くよりも、早いうちから小さく使い慣れておくほうが、結果的に自分の仕事を守ることにつながると感じています。変化を傍観するより、変化の使い方を自分の手で確かめておくほうが、後々の安心材料になるはずです。
まとめ
AIのMR活用というと、企業の大掛かりな導入事例ばかりが目につきますが、実際には個人で契約できる範囲のツールでも、今日から始められることがたくさんあります。
情報収集の下読み、想定問答づくり、日報の整形、資料の下書き。どれも地味な作業ですが、積み重なると準備にかかる時間は確実に減ります。
領域がプライマリであってもスペシャリティであっても、AIに任せる部分と自分に残す部分の役割分担さえ間違えなければ、使い方に大きな失敗はありません。むしろ、小さく試して自分に合う用途を見つけていくプロセスそのものを楽しんでもらえたらと思います。
一方で、患者情報や医師個人が特定される情報は、どんなに便利でも入力しないという線引きだけは、絶対に緩めないでください。この線引きさえ守れば、あとは試行錯誤しながら自分に合った使い方を見つけていけば十分です。
会社の導入方針が決まるのを待つ必要はありません。個人で使える範囲から、リスクの低い用途で少しずつ試してみる。それだけで、日々の準備にかかる時間は着実に変わっていきます。
派手な変化を期待する必要はなく、地味な作業が少しずつ楽になれば十分です。その積み重ねの先に、対話そのものに時間を使える余裕が生まれてきます。
情報収集、想定問答、記録、資料。まずはどれか1つ、今日の業務の中で試せそうな場面を思い浮かべてみてください。この記事が、AIを使い始める最初の一歩の参考になれば幸いです。